私見「W1系のあるべき姿」

その5

バラさずに直す
part2 燃料・空気


つづき−その2

(2) エアスクリュー


前々章でパイッロト系の空気はエアスクリューによって流量を抑制されると述べたが・・・

そのエアスクリューとは赤丸の示すところにあり、一杯締め込むと空気は通れなくなる
(水道の蛇口の栓と同じ働きをしている)
故に締め込んだ位置から幾分か緩む方向に(左方向)に回してやらなければならない
これが「戻し量」であり、全閉である一杯に締め込んだ位置を基準にして、そこから
「1/2回転戻し」とか言われているものである。

SM−3の2−15頁「アイドリング調整の記述では」仮セット値として「1/2」回転の戻し量が記述されている
ここで注意すべきはSM−3記載の「1/2」はあくまでも調整を始めるときの仮セット値であり
規定値とか標準値という意味ではないということ
調整を始めるにあたって、アイドリングさせてやらなければやりようがないので、
とりあえず1/2回転戻しにしてから調整を始めて下さいという意味
ウラを返せば「1/2戻しならば、とりあえずアイドリングするはず」という意味だろう
では標準値はとくに設定されていないのか?
標準値と思われる値はSM−3の3−41頁の表の右下隅に「3/4」と記載してされている。
「1/2」と比較すると「3/4」戻しは混合気を薄くなる方向(左回し)である
つまり1/2に仮設定した後はアエアスクリューを左回し方向で微調整を始めれば良いことになる

ちなみにW3の取り扱い説明書(新車に付いてくる小冊子)にも「3/4回転」と記述されているらしい
(ただし、この「3/4」がW3取説で仮設定値として書かれているのかそれとも標準値として書かれているのかは取説の現物を見てないので不明)

では正しい戻し量とは「3/4」なのか?やってみて3/4と違う場合はどうなのか?
その答えとして曖昧な言い方だが、だいたい3/4のあたりと言える
あたりの意味はプラスマイナス半回転くらいであり
1/4(90度)戻し〜1・1/4(1回転と90度)戻し
くらいがよくある戻し量の範囲であろう。

過去別冊に連載された「W1レストアテクニック」(注1)の「調整編」の記事では・・・
エアスクリューの仮設定らしき値として「1.5回転戻し」・・・・の記述がある
この1.5回転戻しを鵜呑みにし、いきなり1.5戻しから始めようとすると、混合気が薄すぎて
アイドリングしない場合もある。
この記述は、おそらく半回転の180度を1回転と取り違えた勘違いによるものではないかと推測している。
(180度×1.5 = 270度 = 3/4回転)

最適な戻し量は、液面の高さによっても違ってくるし、その他いろんな要素によって違ってくる
考えられる変化要素としては・・・
・季節や標高(外気温度と空気密度
エアクリーナの状態(真っ黒と新品では空気の通りが違う)
・液面の高さ(混合するガソリンの量)
・吸い込まれる力(ウラを返せば圧縮が強いか弱いか)
・ガソリンのオクタン価(ハイオクかレギュラーか)
火花の強弱(燃焼に適した火花、と適量の混合気)

故に車体によってそれぞれ最適な戻し量は異なるし、また左右で違っても当然と言える。
最適な戻し量をさぐりあてる方法はSM−3などに書いてあるとおりであるが、その前に・・・
アイドリング状態で左右どちらかのエアスクリューを一杯に締め込んでみて欲しい
そうすると普通は締め込んでいくに従って回転が苦しくなり、全閉もしくはそこに至る以前に
エンジンは止まってしまうだろう(これが正常)
ところが、たまにバカタレなキャブがあって、全閉にしてもなお平気でアイドリングするヤツがある
つまり、全閉が全閉になってないということである
なぜそのようなことがあり得るのか?

エアスクリューは先の方が細くなっていて、これが奥にいくほど空気の流れを妨げる
そして一杯に締め込んだ状態では空気が流れなくなる
このため先端が平らになっているのが正常
ところが、この先端が角がとれて丸くなっているとしたら・・・
水道の蛇口の栓で言う水漏れ状態と同じく、空気漏れ状態!
そんな場合は1/2とか3/4とかの基準の戻し量は全く参考にならなくなる
ちなみにウチのSAの右側キャブのエアスクリューが、まさにこの状態であり
全閉にしても元気よくアイドリングするバカタレなヤツであった
対策として金工ヤスリで先端を平らに整形したら、全閉でエンジンは止まるようになり
常識的な戻し量があてはまるようになった。

逆に基準以上に戻しているのにエンジンが止まることもあるだろう
その場合は空気の経路の詰まりを疑うべきだと考える
完全に詰まって無いにしろ、どこか空気の流れを妨げる何かがあるかもしれない。

注意すべきは他にもある
スロットルストップスクリューである
(長いので以後「スロットルスクリュー」とする)

(2)スロットルストップスクリュー
アイドリングでは、パイロット系の混合気だけが燃焼されているのではない。
量は少ないがメイン系の混合気も燃焼室に吸い込まれている。
メイン系の混合気流量を決めているのがスロットルスクリューである。
(ただし混合比には関与していない)
このスクリューは俗に「アイドル調整スクリュー」とも呼ばれるくらいポピュラーであり
大抵の単車のキャブの近く備わっていて、ご丁寧につまみ用のノブが付いてるものもある
あまりメカに詳しくない人でも、このつまみを回すことでアイドル回転を上下させることができる
ことくらいは知ってるもんだ。
W1系のスロットルスクリューは「つまみノブ」は付いてないが、エアスクリューよりひとまわり大きく
指でつまんで回しやすいよう親切にネジ頭の外周にミゾが切ってある
だからといってグリグリと気安く締め込んだり緩めたりを繰り返していると・・・

知らぬ間にスロットルバルブを削りこんでいることがある
赤丸で囲んだ部分がスロットルスクリューが当たって削れた部分である
普通に乗っているだけでもアクセルのオンオフによる上下運動でスクリューとのアタリ面は
多少なりとも削れ(ヘタって)ていくので、これは仕方がない
しかしアクセルオフの状態でバルブが底付きしたままスクリューをグリグリねじ込むのはマズイ
スクリューのネジ込みで、バネで上から抑えられたスロットルバルブを持ち上げると同時に、
アタリ面を傷つけることにもなりかねない。
アイドリング調整時のように僅かに少しづつ締め込む場合はまあいいとして
例えば「じゃあまず一杯まで締め込んでえ〜・・・(グリグリ)、それから4回転戻してえ〜・・・」
なんてやるときが要注意なのである。
グリグリ締め込むときはアクセルを開け、スロットルバルブを上に引っ張り上げた状態でやるべきである

ではなぜ、スロットルバルブのスクリュー当たり面が削れると悪いのか?
別に悲観するほど悪いことはない
ただ、同じアイドル回転数を得るためにスクリューを締め込む量が多くなるだけである。
要は「ここでもひとつマニュアルどおりにいかない原因のひとつが・・・」ということである。
ただし、あまりにも深く削れてしまった状態ででは、スロットルスクリューのが見えなくなるくらい
締め込まなくてはならなくなることがある(けっこう不格好である)。
また、スロットルバルブ自体が既ににメーカーから補給部品として出てこない(一部未確認)ので
大切にするに越したことはない。

次章では「一部よくわからない」という声の多いSM−3のアイドリング調整の記述について
述べることとする
またW3のチョークについてもあわせて述べてみたい。

余  談

W1レストアテクニック」とは、 平成5年前後の別冊モータサイクリスト誌において、
約1年に渡り連載された記事であり、横浜市の宮田氏がレストアするW1Sをモデルに
修理のカンどころや、整備のツボを紹介したものである
毎月の掲載は6〜8頁程度であったが、連載分全てをまとめるとかなりの資料的価値があり
「W1ファイル」(山海堂出版)と並んでW1系オーナーのバイブルとなっている。
もう10年近く前の連載記事であるが、今もってその資料的価値と影響力は衰えず
W1系オーナーの間ではスクラップしてファイルされているのが常識であるかのごとしである。
当時、整備についての不安からW1系に手を出すことに二の足を踏んでいた人の多くが、
この記事に刺激され、思い切ってW1系入手に踏み出したという話・実例も少なくない。
記事では、プロをしのぐ宮田氏の技術とノウハウも脱帽ものだが、
ふんだんな写真と図を交えて解りやすく編集した別冊誌記者の熱意も感じられる。
当時の担当記者は柳原解雄氏ではなかったかと記憶しているが、彼自身がW1系好きらしい。
また、当時頃の他の記事を通して感じる柳原氏の定石にこだわらないモノの見方や
独特のモノサシは単車好きにとって参考になることも多いと感じていた。
柳原氏は自らがW3をレストアする「W3再生日記」という連載記事も残している。
連載時期はレストアテクニックよりも更に数年前の平成のはじめ頃?だったと記憶している
「W3再生日記」は「レストアテクニック」に比較するとレストア全般を網羅しているわけではないが
一般の読者と同じように、道具や資金に頭をかかえながらバラシから再メッキ・再塗装・車検まで
知恵を絞ってレストアのハードルを乗り越えていく様子は共感が持てる内容だった。

このように昔の別冊は毎月なにかしら資料的価値があったのになあ・・・と思う今日この頃であるが
嘆くばかりでは能がない。
時は流れた今、web上でより優れた「レストアテクニック」や「再生日記」に触れることができるのである。
とくにコンテンツが豊富な2大サイトは、 進行性W病 と W3Aトホホ本舗 である。
それ以外のサイトでも ぼろバケツ では実際のトラブルを引き金にクランクケースを割って
修理する話がつづられている
また The Endless Holiday ではレギュレータや電装トラブルの話が参考になる
いずれのサイトも本サイトの駄文に比べ、リアルで参考になるところが多いので、
まだご覧になってない貴兄に拝見して頂けると良いと思う。


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